太古から人の営みを見守る大岩壁
秩父鉄道「浦山口駅」から川に沿った山道を十数分上ると、秩父札所28番の石龍山橋立堂がある。山道は武甲山への表参道でもあり、境内は登山客の休憩所にもなっているという。
訪れる人がきっと驚くのは、80メートルほど垂直に切り立った石灰岩の大岩壁。厳しく雄々しいその姿は、古くから祈りの対象であったことが素直に想像できる。この大岩壁の下のえぐられたような岩の陰は、古代人の生活の場だったという。縄文式土器から弥生式土器、土師(はじ)器までが出土し、縄文時代創生期から古墳時代後期までの長い間暮らしていたことが分かっている。
大岩壁に食い込むような橋立堂は、江戸時代中期に建立された。馬頭(ばとう)観音を本尊に祀っていることから江戸時代には馬を飼う人の信仰を集め、縁日ともなれば馬を曳(ひ)いた多くの参詣客でにぎわったそうだ。農作業や運輸手段の主役が馬から自動車に代わった現在も、交通安全を祈願する人が訪れている。

そそり立つ大岩壁 撮影=大坂 寛
石龍山橋立堂
- 本尊:馬頭観世音菩薩(ばとうかんぜおんぼさつ)
- 住所:埼玉県秩父市上影森675
秩父の霊峰・武甲山の西麓に立つ曹洞(そうとう)宗寺院。境内には食堂兼売店やカフェがあり、登山者も立ち寄る。本堂は1707(宝永4)年の建造だが、創建はさらにさかのぼるという。
境内の「橋立鍾乳洞」は近代まで修験者の道場で、洞穴を母胎に見立てた心身再生の儀式「胎内くぐり」に使われていたと見られる。現在は、国内では珍しい縦穴型の観光洞として名所に。また大岩壁の下の「橋立岩陰遺跡」は、古代人が雨露をしのいだ生活の場だった。
奇異な景観は石灰岩の浸食で生まれたもの。秩父が海底にあった太古にサンゴなどで造られた地層がむき出しになっており、ジオスポットとしても注目を集める。
取材・文・編集=北崎 二郎
バナー写真:橋立堂の大岩壁 撮影=大坂 寛


