boboh5boboh5

感謝の気持ちを台無しにする「贈答品のタブー」:送別の品にハンカチ、結婚祝いにペアグラスや包丁は縁起が悪い?

Ad

語感や漢字に吉凶を感じる国民性

記念日や人生の門出、年の節目にはプレゼントを贈り合う。品物のチョイスに強く影響しているのが、モノの形や性質、言葉の響きや字面に「縁起がいい・悪い」と感じる精神性だ。

例えば結婚前の相手に贈る「結納九品目(ゆいのうくひんもく)」は、「末広がり」をイメージさせる扇子や「よろこぶ」に語感の似た昆布など、実用性より縁起担ぎ重視。品数にも意味がある。奇数は古い時代の吉数で、とりわけ九は縁起がいいとされた。しかし現代では、祝儀や香典の金額は最初の桁を奇数にする慣習が根強いものの、九は「く=苦」を連想させると悪印象を抱きがち。四も「し=死」と読める忌み数字とする一方、八は末広がりの字形から吉数と見なす。

【結納九品目】

関東式の九品目(PIXTA)
関東式の九品目(PIXTA)

(左奥から)

  1. 家内喜多留(やなぎたる):本来は男性側が朱漆塗りの酒だるを贈った。近年は、縁起のいい当て字を表書きにして現金を包むこともある
  2. 末広(すえひろ):扇子。どんどん広がることから「未来が開ける」ことにつながる
  3. 友白髪(ともしらが):白い麻糸を束ねた縁起物。夫婦が「ともに白髪」になるまで円満・長寿を願う
  4. 子生婦(こんぶ):語感は「よろこぶ」に、当て字は子宝に通じる
  5. 寿留女(するめ):スルメイカ。日持ちすることから、末永い幸せの象徴に
  6. 勝男節(かつおぶし):雌雄1対のかつお節で夫婦円満を願う。「勝男武士」とも書いて男性の力強さを表す
  7. 金包(きんぽう):結納金。本来は男性に袴(はかま)、女性には帯や小袖を贈っていたので、婚礼衣装代という名目
  8. 長熨斗(ながのし):干して伸ばしたアワビ。長寿の肴(さかな)とされる最高級の贈答品
  9. 目録(もくろく):贈答品リスト、いわば納品書。項目は右から縦書きで長熨斗~家内喜多留の順に記す

製造業や流通業が発展した近代以後、贈答品がバリエーション豊かになるにつれて、新しい習慣が次々と生まれた。西洋由来のフラワーアレンジメントは代表格といえる。母の日には「母への愛」の花言葉から赤いカーネーションを贈る。開業・開店祝いにコチョウランが定番なのは、見た目が華やかで「幸福が飛んでくる」花言葉を持つから。一方、シクラメンは名前に「シ=死」「ク=苦」が付くのでタブー視される。

高級な花の代名詞・コチョウランは明治時代に伝わった(PIXTA)
高級な花の代名詞・コチョウランは明治時代に伝わった(PIXTA)

櫛(くし)も名前の響きから贈答には不適切とされるが、江戸時代には男性がプロポーズする相手にあげた品。刃物も「縁を切る」とNG扱いされるものの、さかのぼれば刀は武家の最上級の贈答品であり、魔よけの縁起物だった。近頃はどちらも「OKアイテム」と見直されつつあるように、贈答文化は時代と共に変化するものだ。

タブーとされる贈り物の例

櫛(くし)

つげ櫛(PIXTA)
つげ櫛(PIXTA)

語感が「苦」「死」に通じ、歯の欠けやすさが不吉な印象を与えるとされる。もっとも近年は「もめ事を解きほぐす」縁起のいいアイテムとの売り文句も目にする。

刃物

調理用刃物(PIXTA)
調理用刃物(PIXTA)

包丁やハサミは「縁を切る」意味を感じさせ、特に結婚や引っ越しといった門出を祝う場には不向き。一方、「運命を切り開く」縁起物とする傾向もある。

ハンカチ

弔事用のハンカチは純白がならわし(PIXTA)
弔事用のハンカチは純白がならわし(PIXTA)

涙を拭う用途から送別の品に選ばれやすいが、漢字の「手巾(しゅきん)」が「手ぎれ」と読めるため「縁を切る」と受け取る人もまれにいる。デザインや添える言葉のチョイスで悪い印象を和らげよう。なお真っ白なハンカチは、遺体の顔にかぶせる布(打ち覆い)をイメージさせるため避けたい。

目上の人に履物

ソックス、革靴(PIXTA)
ソックス、革靴(PIXTA)

上司や親など目上に対して「足で踏む」ものは失礼だと見なされる。江戸時代に食い詰めた武士が内職に傘張りをしたのは「人の上」に差すものだからで、草履編みはしなかったという。いずれにせよ、ファッションアイテムは好みが分かれるので避けた方が無難。

目上の人に時計、文房具

腕時計、万年筆(PIXTA)
腕時計、万年筆(PIXTA)

「もっと勤勉に」との含意を感じさせるため。なお、中国では時計を贈ることを「送鐘(ソンジョン)」といい、臨終や葬儀を意味する「送終」と響きが似るためタブーとする。

結婚祝いにガラス類

グラス(PIXTA)
グラス(PIXTA)

割れやすい、壊れやすいため、破談や離婚を暗示させて不吉だとされる。

新築祝いに火を使うもの

アロマキャンドル(PIXTA)
アロマキャンドル(PIXTA)

石油ストーブや灰皿、アロマキャンドルなどは、火事を連想させるためNGとされる。中には「赤色のもの」全般を忌避する人もいるので要注意。

お見舞いに鉢植え

観葉植物の鉢植え(PIXTA)
観葉植物の鉢植え(PIXTA)

「根付く」植物は「寝付く」につながり、療養中の人には不適切とされる。実際問題、入院中の相手であれば、世話や持ち帰りの手間をかけるだろう。

開店祝いに茶葉

缶入りの煎茶(PIXTA)
缶入りの煎茶(PIXTA)

客が付かない遊女が茶葉の石臼びきをしたことから、暇を持て余すことを「お茶をひく」という。客商売など敬遠する人もいるが、実際には中元・歳暮の定番ギフトである。

慣習より相手の気持ちを第一に

贈答のタブーには、事実無根の「現代の迷信」も少なくない。例えば煎茶は弔事用のイメージが強いため、「お祝いの品にお茶など縁起でもない」と忌避する人がいる。だが本来は、軽い・日持ちする・苦手な人が少ないなど贈り物に最適だからこそ、会葬御礼に選ばれやすいのだ。「開店祝いに煎茶は不向き」という言説は、どんなモノにも縁起を意識する人はいることを示す典型例といえる。

感謝やいたわりの気持ちを品物に託すのが、贈答文化の本質。相手が喜ぶか、役に立つかを考慮することが何より大切である。

監修:柴崎直人(SHIBAZAKI Naoto)
岐阜大学大学院准教授。心理学の視点で捉えたマナー教育体系の研究を専門とし、礼儀作法教育者への指導にも努める。小笠原流礼法総師範として講師育成にも従事。

イラスト=さとうただし

文=ニッポンドットコム編集部

Ad
あなたにおすすめ
src

盆暮れの風物詩、お中元とお歳暮:食品を贈るのは“お供え”がルーツだから

日本のさまざまな作法やしきたりについて、ハウツーにとどまらず、由来からその本質をひもといていくシリーズ企画。今回は季節の贈り物、お中元とお歳暮を紹介する。

src

鎌倉・紅葉の名所散策:秋色に染まった寺社を巡る

四季折々の景観が楽しめる鎌倉(神奈川県)は、秋の紅葉も絶大な人気。黄や紅で彩られ、錦(にしき)のように美しい寺社を案内する。

src

琉球創世神の上陸地・ヤハラヅカサ、浜川御嶽:大坂寛「神のあるところへ」 石の章(13)

神が宿るとあがめられてきた自然物を写真家・大坂寛がモノクロームカメラに収める。今回は沖縄本島で最古と伝わる聖地「ヤハラヅカサ」と「浜川御嶽(はまがわうたき)」を訪ねる。

Ad
src

ガンプラ生産拠点・バンダイホビーセンターに体験型ミュージアム誕生 :ガンダムの実物大プラモニュメントがお出迎え 

プラモデルの町・静岡市の新名所世界中に熱狂的なファンを持ち、累計販売数が8億個を超えるガンプラ(ガンダム・プラ… 続きを読む →

src

【日本三大太鼓祭り】岩手「盛岡さんさ踊り」・鹿児島「伊作太鼓踊」・岐阜「飛騨古川祭」:リズムがもたらす一体感と高揚感

日本全国に数ある祭りの中から、ジャンル別の御三家を取り上げるシリーズ企画。今回は、祭りの芸能・和太鼓が主役となる“音の祭典”を紹介する。

src

やんばる北端の聖なる岩山・安須森:大坂寛「神のあるところへ」 石の章(11)

神が宿るとあがめられてきた自然物を写真家・大坂寛がモノクロームカメラに収める。今回は沖縄本島最古の聖域、亜熱帯林に立つ石灰岩の山「安須森(あすむい)」を訪ねる。

src

シベリア抑留の“記憶”伝える「舞鶴引揚記念館」:引揚者や舞鶴の人々には、戦後80年はまだ訪れていない―

戦後13年間にわたり、シベリア抑留者を中心に引揚者を乗せた船を迎え入れた京都府舞鶴市の港。強制収容所「ラーゲリ」での過酷な生活、日々募らせた故郷や家族への思いなどを発信する「舞鶴引揚記念館」で、改めて戦後80年を考えた。

src

やんばるの森のテーマパーク「ジャングリア沖縄」:ジャングルクルーズや空中散歩で大自然に飛び込む感動体験!

沖縄・やんばるの亜熱帯の森を舞台にした新感覚テーマパークが7月25日にオープン。ジャングルを駆け抜け、宙を飛ぶ絶叫系アトラクションから、雄大な景色を望むレストランや南国風スパまで、大自然を五感で楽しめる。

src

海辺の古都・鎌倉:江の島と紅富士、水中花火、神職の沐浴…波打ち際の絶景に出会う

三大古都の中で、海に面するのは鎌倉(神奈川県)だけ。7キロの海岸線はサーファーの聖地として有名なだけでなく、鎌倉時代からの風習や史跡、波越しの「紅富士」など日本的な魅力にあふれている。

Ad
src

琉球王国最高の聖地・斎場御嶽:大坂寛「神のあるところへ」 石の章(10)

神が宿るとあがめられてきた自然物を写真家・大坂寛がモノクロームカメラに収める。今回は、琉球王国(1429-1879年)の祭祀(さいし)の場であり、今も沖縄本島最高の聖地「斎場御嶽(せーふぁうたき)」を訪ねる。

src

ようこそ! 銀座「歌舞伎座」へ:中村鷹之資が語る歌舞伎の殿堂の“魅力”と“魔力”

東京・銀座のランドマーク、歌舞伎座は役者にとって特別な真剣勝負の場であると同時に、誰もが気軽に訪れて歌舞伎の華やかな雰囲気を楽しめる「テーマパーク」でもある。期待の若手・中村鷹之資がその魅力を語る。

src

アンゴラパビリオン

リズムと生命が響き合う“命のパビリオン”アフリカ南西部に位置するアンゴラのパビリオンは… 続きを読む →

src

秩父・橋立堂の巨大岩壁:大坂寛「神のあるところへ」 石の章(9)

神が宿るとあがめられてきた自然物を写真家・大坂寛がモノクロームカメラに収める。今回は、古くから山岳信仰の聖地であり岩盤に囲まれたお堂に仏を祀(まつ)る、秩父札所34観音霊場(埼玉県)の一つを訪ねた。

src

スカイツリーのふもとで日本文化を世界へ発信する「片岡屏風店」:思い入れのある写真や着物をモダンなインテリアに!

1300年以上前に日本へ伝来し、 伝統工芸品となった「屏風(びょうぶ)」。時代の流れで需要が減り続けている中、都内唯一の専門店「片岡屏風店」は独自の取り組みで海外から注目を集めている。

src

鎌倉花散策の代名詞「アジサイ巡り」:雨に映える景勝の寺4選

春の梅や桜に続いて、梅雨時の鎌倉(神奈川県)はアジサイに彩られる。元祖「アジサイ寺」から意外な名所まで、古都写真家が息をのむ花景色を紹介する。

src

【日本三大荒神輿】石川「宇出津あばれ祭」・熊本「お法使祭」・滋賀「伊庭の坂下し祭り」:神の乗り物を破壊する奇祭

日本全国に数ある祭りの中から、ジャンル別の御三家を取り上げるシリーズ企画。今回は、聖なる神輿(みこし)を壊れるほど引きずったり、壊れるまで投げ落としたりする、手荒い祭りを紹介する。

src

秩父・観音院の大岩壁と鷲窟磨崖仏:大坂寛「神のあるところへ」 石の章(8)

磐座(いわくら)や神奈備(かんなび)などと呼ばれ、神が宿るとあがめられてきた自然物を写真家・大坂寛がモノクロームカメラに収める。今回は、岩壁に無数の仏を祀(まつ)る、埼玉県西部の霊場をお届けする。

src

鎌倉・建長寺発祥の禅文化:坐禅や精進料理で古来の教えを感じる

800年以上の歴史ある古都・鎌倉(神奈川県)は、武士が崇敬した禅宗の聖地。禅宗寺院の中で最も格式高い建長寺を訪ね、境内の風景や修行の中に「禅の心」を感じたい。

src

ベトナムパビリオン

衣装や楽器、人形劇など伝統文化をアピールベトナム戦争終結から50年目の4月30日、満を持してオープン。館内では… 続きを読む →

src

ガンプラやミニ四駆を生み出すプラモデルの町・静岡市:家康の時代から、ものづくり精神が息づく「模型の世界首都」

日本一の山・富士山のお膝元で、世界遺産の景勝地・三保松原を擁する静岡市は、プラモデル出荷額でも日本一の町である。国内外の人々を魅了し続けるガンプラやミニ四駆、ラジコンに込められた“ものづくり精神”の歴史を紹介したい。

src

モザンビークパビリオン

美しい海とカラフルな模様に魅せられるアフリカ南東部に位置し、インド洋に面する2500キロの海岸線が美しいモザン… 続きを読む →

src

バングラデシュパビリオン

経済発展の礎でもある織物文化を紹介ベンガル湾に南面し、三方はインドと国境を接するバングラデシュは、日本の4割ほ… 続きを読む →

src

セネガルパビリオン

負の世界遺産が示す「未来への交差点」の意志アフリカ大陸の最西端に位置し、大西洋に面するイスラム国家セネガル。首… 続きを読む →

© 2025 boboh5.com. All rights reserved