米ツアー5勝の快挙
各国からトップ選手が集まり、世界で最もレベルが高い米女子ツアー。2025年、日本からは竹田麗央、山下美夢有、岩井明愛、千怜の双子姉妹の4人が初参戦し、いずれも優勝を飾った。日本人選手の優勝は、米女子ツアー参戦2年目の西郷を含めて5回を数える。
19年(畑岡奈紗、渋野日向子、鈴木愛)と24年(笹生優花、古江彩佳、竹田)の3勝を超えて日本女子ゴルフ史上最多の勝利数だ。10月4日までの5勝は国別で韓国と並んで最多タイだが、5勝のうちメジャー2勝、初優勝選手が4人という内容を鑑みると、日本は最も勢いがあり、存在感を発揮している。

ポートランド・クラシックで優勝した岩井明愛(右)が、3位に入った双子の岩井千怜(左)とポーズ=2025年8月17日、米オレゴン州(AFP=時事)
海外5大メジャーでも今年の西郷(シェブロン)と山下(全英OP)の優勝に加え、昨年は笹生優花が全米女子オープン、古江彩佳がエビアン選手権を制覇している。直近2年のメジャー10大会で日本勢は優勝4回と存在感を示した。同期間に2回優勝のオーストラリアを引き離して断トツだ。
全英オープン渋野Vが刺激
今、日本女子ゴルファーが世界の舞台で大活躍している理由は、大きく分けて5つある。
1つめは、米女子ツアーに参戦する選手の増加だ。今季、日本人選手は13人が本格参戦。コースではライバルである一方で、日本語で情報交換できるメリットは大きい。
世界女子ゴルフ史上ただ1人、5大メジャー大会を制したカリー・ウェブ(オーストラリア)は今年8月に来日した際、日本勢の活躍について「仲間がいることは大きい。その仲間が活躍することで『自分もできる』と刺激を受け、相乗効果が高まっている」と分析した。今季、米女子下部ツアーを制した原英莉花をはじめ、来季はさらに日本人選手が増えることが予想され、それに比例して日本勢のさらなる活躍が期待できる。

シェブロン選手権で優勝し、子どもたちと記念撮影する西郷真央(中央)=2025年4月27日、米テキサス州ウッドランズ(時事)
2つめは、渋野日向子の2019年全英女子オープン優勝だろう。1977年に全米女子オープンを制した樋口久子さん以来、42年ぶりのメジャー制覇だった。分厚い壁を破ったことで「私も勝てる」というムードが高まった。
2021年には全米女子オープンで笹生優花が優勝。22年には女子アマチュアの最高峰タイトルと言われる全米女子アマで馬場咲希が勝利し、ビッグタイトルを狙う心理的な障壁は下がっていった。
ただ、日本勢の飛躍のきっかけをつくった渋野は今季、米女子ツアーで苦戦。10月4日時点でポイントランクは104位。来季の出場権を獲得できる100位以内に食い込むのは苦しい状況に追い込まれており、レベルの高いツアーで戦い続けることの厳しさを示す。
国内大会改革、代表チームで腕磨く
さらに3つめとして、日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)の改革も影響している。米女子ツアーに倣い、13年から日本女子ツアーも、4日間トーナメントを増やした。また、ピン位置、グリーンスピード、距離、フェアウエー幅、ラフの長さなどコースセッティングの難度を上げた。年間37試合のツアーを日々、戦うことで、個々の実力は確実にレベルアップした。
4点目として、ナショナルチームの経験をした選手が勝負強くなっていることも背景にある。現在、日米の女子ツアーで活躍している選手の多くは、アマチュア時代に日本ゴルフ協会のナショナルチームに選抜され、腕を磨いた。オーストラリア人のガレス・ジョーンズ・ヘッドコーチらによる科学的なトレーニングやマネジメントなどを学び「勝利の方程式」を確立させた。また「日の丸」を背負い、多くのアマチュアの国際大会に出場。高校時代から大舞台で戦う経験を積んだことで、プロの世界でも勝負強さを身につけた。
宮里、横峯ブームが裾野拡大
最後に、宮里藍さんの存在も影響していると言えるだろう。2003年、当時・高校3年生だった宮里藍さんがアマチュアながら日本女子ツアーで優勝。女子ゴルフの注目度は一気に上がった。
当時は宮里藍さんと同年齢の横峯さくら、1学年下の諸見里しのぶさん、上田桃子さんら華のある選手も台頭し、日本女子ツアーは空前のブームが巻き起こった。1998年度生まれの「黄金世代」をはじめ、当時の少女たちが女子プロゴルファーに憧れ、ゴルフを始め、競技の裾野が広がった。
全盛期の宮里藍さんとしのぎを削った先述のカリー・ウェブは「やはり藍さんが今の世代の憧れであって、今の日本女子ゴルフ界を作っていると思います」と語っている。また、宮里藍さんの父・優さん、横峯さくらの父・良郎さんは、それぞれ魅力的なキャラクターで、当時のゴルフ少女の父親たちを刺激した。女子プロゴルフに興味を抱いた娘の夢を応援する気持ちが増したことだろう。
5つの要因はそれぞれリンクしている。大まかな時系列では宮里ブームから日本人選手の米ツアー大量参戦までさかのぼっていく順で、好サイクルが生まれたのだ。

LPGAブルーベイトーナメントの最終ラウンドで、ティーショットを打つ竹田麗央=2025年3月9日、中国・海南島(AFP=時事)
家族の支え不可欠
日本人選手の飛躍を語る上で、それぞれの選手の家族の献身的なサポートも欠かせない。
全英女子オープンを制した山下の両親は、愛娘の快挙を現地で見守り、支えた。第2日に65の好スコアで回り、首位に立ったが、第3日は74と苦戦。首位は守ったが、2位とはわずか1打差だった。その夜は家族で外食。実はその日は8月2日で、山下の24歳の誕生日だった。即席の「誕生日パーティー」で、山下は苦しんだ第3ラウンドを忘れ、勝負の最終ラウンドに気持ちを切り替えられた。優勝インタビューで山下は「一番近くで家族が支えてくれました」と涙ながらに感謝の言葉を紡いだ。
山下以外も同様だ。多くの選手は母親が帯同。炊飯器を持ち込んで、早朝からおにぎりをつくるなど献身的に支えている。
勢い維持には国内環境がカギ
ここまで日本女子ゴルフ界が躍進した内的要因を探ってきたが、外的な要因のひとつとに近年の韓国の勢いの低下もある。今季は日本と並んで最多の5勝を挙げているが、最盛期の2017年に比べれば半減した。その理由のひとつは、賞金総額が高騰している韓国国内ツアーに選手がとどまり、米女子ツアーに挑戦する選手が大きく減ったことだろう。国内で実力を付け、海外で成果を上げるという好循環が乱れているのだ。
これは、将来の日本女子ゴルフ界にも共通する課題だ。スター選手が米女子ツアーに戦いの場を移すことで日本女子ツアーの落ち込みが懸念される。今後も日本勢の好循環を維持するためには国内での育成環境を整えつつ、積極的に世界に挑戦する流れを止めてはならない。
サッカーの例が参考になる。4年に一度のワールドカップなど華やかで苛烈な舞台で戦う日本代表は今、「歴代史上最強」の呼び声が高い。現在の日本代表メンバーのほとんどは欧州のクラブに所属している。しかし、日本代表チームの強さを支えているのは、中高生年代の下部組織やプロ入り直後の若手選手の育成などを進めてきた国内のJリーグだと言える。
歴代の日本代表監督、日本サッカー協会会長は口をそろえて「Jリーグあってこその日本代表」と語る。Jリーグで成長した選手が欧州のクラブに挑戦する流れがあるからだ。それは日本に限った話ではない。自国リーグの充実がその国の代表チームの強化につながるのはサッカーの世界では万国共通だ。
おそらくそれはゴルフにも通じる。日本女子ツアーで実力と人気を兼ね備えた選手が育ち、彼女たちが米女子ツアーに主戦場を移して次から次へとニューヒロインになっているからだ。
一方、日本の男子ゴルフは松山英樹が世界の舞台で孤軍奮闘しているが、彼に続く選手は見当たらない。日本女子ツアーに比べ、日本男子ツアーが盛り上がっていないことと無関係ではないだろう。
日本女子ツアーが進化と活況を続けていくことこそが、日本人女子選手が世界の舞台で輝き続ける原動力になるはずだ。
バナー写真:2025年8月の全英オープンで優勝した山下美夢有。6月のマイヤーLPGAクラシックにも参戦した=2025年6月12日、米国ミシガン州(Amy Lemus /ロイター)
