boboh5boboh5

室生寺 弥勒菩薩立像:六田知弘の古仏巡礼

Ad

あどけない表情に、頭がやや大ぶりな体形は純真な幼子を思わせる。三重との県境、奈良北東を流れる室生川の北岸に立つ室生寺・弥勒堂(重要文化財)の本尊として安置される弥勒菩薩像である。

弥勒菩薩は神々のいる兜卒天(とそつてん)で修行中の身で、釈迦(しゃか)の没後、仏の教えが失われた暗黒の時代が続いた56億7000万年後にこの世に現れ、如来となって人々を救済すると信じられている。飛鳥時代に日本に伝わり、平安時代に弥勒浄土信仰が盛んになって、修験道(しゅげんどう)にも取り入れられた。

足を組み、頬に手を当てて衆生をいかに救おうかと考えを巡らす「半跏思惟(はんかしい)」のポーズが伝来当初の弥勒菩薩を象徴するものだった。平安期以後は密教の影響で坐(ざ)像や立像が多くなり、他の仏像との見分けがつかなくなった。本像も立ち姿だが、古くから弥勒堂の厨子内に安置されているので、弥勒菩薩と考えられている。

芳香を放つ、緻密な木目の白檀(びゃくだん)は古来、神聖な木としてあがめられ、仏像や仏具の素材として欠かすことのできないものだった。木目の美しさや香りを生かすために彩色を施さず、素地のままに仕上げた仏像は「檀像」と呼ばれ、日本にも数多く招来した。熱帯に自生する白檀は日本にはなかったが、奈良時代になると木質が似ている檜(ひのき)や榧(かや)を代用材として檀像風の仏像が多数つくられるようになった。 

髪に群青、眉と瞳に墨、唇に朱のわずかな彩色のみで、榧の素地(そじ)をそのままに仕上げた本像も、典型的な檀像風彫刻と言えるだろう。両腕や瓔珞(ようらく=装身具)、天衣なども本体と同材で彫り出されており、8世紀末から9世紀初頭に制作されたものと推測される。室生寺の中で最も古い仏像である。

「腰に巻いた衣のゆったりと波打つようなひだの表現の繊細さに驚く」と写真家の六田知弘は語る。「1200年以上も前に生きた人間の手によって、この繊細な造形の御仏が彫り出されたとは信じ難い。弥勒という未来仏を彫り上げたその仏師にとって、彫るという行為そのものが、将来に向けての深い『祈り』だったのでないか」

檀像風ではあるが、どこか高貴な香りが漂ってきそうな尊像である。

弥勒菩薩立像

  • 読み:みろくぼさつりゅうぞう
  • 像高:0.94メートル
  • 時代:平安時代
  • 所蔵:室生寺
  • 指定:重要文化財(指定名:木造弥勒菩薩立像)

バナー写真:弥勒菩薩立像 室生寺蔵 撮影:六田 知弘

Ad
あなたにおすすめ
src

「生」も「干し」もうま味たっぷり:椎茸のお料理コレクション

干し椎茸は、かぶる程度の水に半日ほど浸すとふっくら戻る。この戻し汁を椎茸出汁(だし)と呼び、汁物や煮物に使うと、濃いうま味を楽しめる。香り高さと歯ごたえが魅力の生椎茸は、焼き物や揚げ物に向く。

src

みそ汁だけじゃない!味わい深い「味噌」のお料理コレクション

味噌は北から南までどこでも造られている、地方色豊かな調味料。各地の特産物と結びつき、さまざまな伝統食・郷土食を生んでいる。

src

味噌(みそ):大豆を発酵・熟成させた和食の基本調味料 

味噌は、日本を代表する発酵調味料の一つ。個性あるご当地味噌が全国で造られているので、食べ比べて好みの味を探すのもいい。

Ad
src

映画『愚か者の身分』:闇バイトに手を染めた男たちの絆を“ラブコメの名手”永田琴監督が描く

9月に開催された韓国の釜山国際映画祭で「最優秀俳優賞」に輝き話題となった『愚か者の身分』が全国公開。北村匠海、林裕太、綾野剛の3人が受賞する異例の結果だったが、これは小説を映画化する際に監督の意図した狙いが見事に的中した評価だと言える。永田琴監督に話を聞いた。

src

【書評】木箱が華麗に“変身”:パイザー真澄著『Chabako-茶箱 インテリア茶箱 究極の収納アート』

幕末・明治時代から日本茶を船で輸出するために作られた「茶箱(ちゃばこ)」。杉材の木箱だが、美しい布地や織物を纏(まと)うことで家具やアート作品に変身する。本書は“インテリア茶箱”の誕生と伝統的な茶箱づくり継承の物語である。

src

一片の皮を添えるだけで爽やかに香り、素材を引き立てる:柚子のお料理コレクション

黄色い柚子の皮を一片添えるだけで、爽やかな香りと華やかな彩りが加わる。ちょっと上品で気の利いた料理に見せる、柚子の魔法。

src

映画『おーい、応為』:北斎と娘の触れそうで触れない“粋”な距離感 永瀬正敏×大森立嗣が語る

江戸時代の天才絵師・葛飾北斎には、その画才を受け継ぐ娘がいた。父娘は強烈な個性でぶつかり合いながら、互いに才能を認め合う師弟の間柄でもあった。その程よい距離感は、時代を超えて人々の胸に静かに響く。北斎を演じた永瀬正敏と大森立嗣監督に撮影の舞台裏を語ってもらった。

src

ラーメン店起業体験が学校を変える? 「一風堂」支援の独創的な教育プログラム:福岡・柳川高校

福岡県の私立柳川高校(古賀賢校長)は、世界16の国と地域に約300店舗を展開する福岡のラーメン店「一風堂」と組んだ前代未聞の「スタートアップ教育プログラム」を今年スタートした。ラーメン店経営のアイデアを形にすることで、実践的な経営力を養うのが目的だ。独創的な商品はキッチンカーで販売する。

src

消える日産GT-R、復活のホンダ・プレリュード 国産スポーツカーの未来像は?

世界中にファンを持つ日本製スポーツカーの代表格、日産GT-Rが2025年8月に生産終了となった。1960年代から続く伝統のシリーズがなぜ姿を消すのか。歴史を振り返ると共に、終焉(しゅうえん)の意味を検証する。

Ad
src

葛(くず): 「古事記」の時代から奈良吉野の名産―良質な水と冬の寒さが最高級品を生む

驚異的な繁殖力から「グリーンモンスター」と呼ばれ、米国では侵略的外来植物に指定される。でも、その根に蓄えたでんぷん質はこの上なく上品なふるふる感を生み出す。

src

吉野の山の白いダイヤモンドは限りなく透き通る : 葛のお料理コレクション

雑菌の繁殖しにくい凍てつく時期に、何度も何度も繰り返し精製する過程を「吉野晒し(よしのざらし)」と言う。そうして得られた真っ白い葛粉は「白いダイヤモンド」と珍重される。

src

食べごたえずっしりでもヘルシー!和食材の代表選手:豆腐のお料理コレクション

豆腐は栄養豊富で、主菜に副菜にと変幻自在。毎日食べても飽きないうえ、お財布にも優しい庶民の味方だ。

src

法輪寺 虚空蔵菩薩立像:六田知弘の古仏巡礼

大陸的でどこかエキゾチックな風貌の飛鳥仏。手を合わせ拝んでいると、いつしか私たちは穏やかな空気に包まれる。

src

大躍進のプロゴルフ日本女子:世界メジャー大会を次々制する5つの理由とは

世界の女子プロゴルフ界で今、最も勢いがある国は日本だ。今年の海外5大メジャー大会では、西郷真央がシェブロン選手権、山下美夢有(みゆう)が全英女子オープンを制した。世界最高峰の米女子ツアーの国別勝利数でも、今季は10月1~4日のロッテ選手権まで25戦中5勝で、強豪・韓国と並んで最多タイ。強いニッポン女子ゴルフの理由を考察した。

src

よみがえる奄美の原風景:本土復帰72年、戦後の記録写真をデータ化して島へ

70年前に民俗写真家・芳賀日出男氏が撮影した奄美群島の画像データが、現地に寄贈された。当時の暮らしや風習の克明な記録は、古老たちの記憶をよみがえらせ、失われつつある島の文化継承でも大きな役目を果たしていく。

src

奪われた大地に響く物語──ガッサン・カナファーニの「ハイファへの帰還者」

ガザの空を焼く炎の向こうで、パレスチナという名の傷が再び痛みを訴えている。イスラエルによる容赦なき殲滅(せんめ… 続きを読む →

src

和洋中なんにでもアレンジ “組み合わせの妙”に納得!納豆料理コレクション

伝統的な発酵食品として日本の食生活に根付いている納豆。ご飯にのせるだけでもおいしいけれど、現代的なメニューと組み合わせても意外とイケる。バリエーション無限な“納豆ワールド”へようこそ!

src

納豆:独特のにおいと粘りが個性を放つ発酵食品

「日本の発酵食品」の代表格ともいえる納豆。あの独特のネバネバの中にうま味や健康に役立つ成分がつまっている!

src

東大寺 執金剛神立像:六田知弘の古仏巡礼

目を見開き、雄たけびを上げる、その力強い表現には圧倒される。色彩も鮮やかに残り、天平仏の傑作中の傑作と称される。

src

“若返り”の夢とがんのリスクは隣り合わせ?:世界が注目するiPS細胞アンチエイジング研究

人生100年時代。医療や介護に頼らずにいられる「健康寿命」をできるだけ長くしたい、できれば見た目も若々しく―そんな思いを実現しようと近年、iPS細胞技術を使った老化防止や若返りの研究が活発化している。東京大学の山田泰広教授に、若返り研究の可能性と課題について聞いた。

src

『葬送のフリーレン』 人生の意味を問う異色ファンタジー:冒険の終幕から始まり、新たな旅へ

1000年以上の寿命を持つ異種族エルフの魔法使いフリーレン。その特殊な視点から人間の生や文化を見つめた異色作『葬送のフリーレン』は、全世界で単行本の累計発行部数が3000万部を超える大ヒット作になった。異世界を旅するファンタジーでありながら、私たちの生き方にも示唆を与える作品になっている。

src

地味ながら滋味深い…“おふくろの味”を思わせる ひじきのお料理コレクション

黒くて地味な海藻・ひじきは、栄養バランスや彩りを考えて料理にプラスされることが多い。親から「ちゃんと食べなさい」と食卓に出されるような、家庭料理が得意分野だ。

src

ひじき: 国産は貴重品!家庭料理に出番が多数 黒さ際立つ素朴な海藻

海藻の中でも、ひときわ素朴な印象のある「ひじき」。真っ黒な色はインパクトがあるが、意外と何にでも合う食材だ。

© 2025 boboh5.com. All rights reserved