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相撲部屋の動画発信は角界の未来を救うのか:伝統堅持へルール強化も

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力士が一斉に「ごっちゃんです」

特濃つけ麺がテーブルに運ばれると、力士たちは手を合わせて「ごっちゃんです」。一斉にスープにつけた麺をすすり、お代わりをする。力士たちは「魚介の味がめっちゃ濃厚です」「最高です」と食レポ。サイドメニューのから揚げも次々に口へ運ぶ。

二子山部屋のYouTube動画「【三田製麺をすする力士】全部のせ特濃つけ麺・たまごかけ麺・唐揚げ・鯛だし塩つけ麺」は、親方と力士たちが店舗の2階を借り切って食事を楽しむ様子を収めている。再生回数1030万回を超える人気コンテンツだ。

二子山部屋は3年前にYouTubeチャンネル「二子山部屋 sumo food」を開設。「相撲道/sumo life」や「休日/holiday」などの企画があり、270本近くの動画を配信している。「ノーカット朝稽古」など、リアルな稽古風景をそのまま届ける動画もあり、チャンネル登録者数は角界最多の約49万人。英語字幕も付けられているため、海外からの視聴も多く、これまでの総再生回数は2億回を超えると見られている。

変わりゆく「部屋」と力士の素顔を発信

相撲部屋では、師匠一家と弟子たちが「同じ釜の飯を食い」「ひとつ屋根の下で寝起き」しながら稽古に励むという伝統が続く。動画は、その日常を映し出し、先輩や後輩と共にに日々精進する力士たちの青春を感じさせる。

二子山部屋のYouTubeチャンネルで公開されている朝稽古(二子山部屋提供)
二子山部屋のYouTubeチャンネルで公開されている朝稽古(二子山部屋提供)

相撲部屋は生活ルールなどが厳しいのでは、という誤解や先入観もあるが、二子山親方(元大関・雅山)は「普通の生活を見てもらうことで、相撲ってこんなにいいものだと感じてもらえたらありがたい」と語る。動画で食事シーンが多く登場することについても、「部屋のモットーである“残さずきれいに食べる”という意味を込めている」と強調する。

相撲協会も「親方ちゃんねる」

ハードトレーニングなしで、強く、魅力ある力士が生まれることはあり得ず、稽古の厳しさは今も昔も変わりない。だが、大相撲界は、新弟子リンチ事件や八百長メール事件など不祥事の連鎖が続いた十数年前から、大きな変容を遂げた。以前のような理不尽な上下関係や暴力的指導は姿を消し、プライベートの風通しも良くなっている。二子山部屋の動画は、そうした変わりゆく相撲部屋の姿も反映している。

相撲協会は「親方ちゃんねる」という公式YouTubeチャンネルを運営し、本場所中の生解説や、親方たちが現役時代を振り返る企画「あの頃君は若かった」、「相撲界の背筋王決定戦」など、趣向を凝らした動画を500本以上配信。チャンネル登録者は29万人を超えている。

親方の「テクニック講座」

技能派大関として知られた元大関・栃東の玉ノ井部屋は、力士の日常だけでなく、「栃東直伝テクニック講座」を過去3回にわたって配信。親方が自らまわしを締め、若手力士を相手に「まわしの切り方」「おっつけ」「腕(かいな)の返し手」などを実演しながら、わかりやすく解説している。

元栃東(右)が伝える相撲の技術を伝える動画の一場面(玉ノ井部屋提供)
元栃東(右)が伝える相撲の技術を伝える動画の一場面(玉ノ井部屋提供)

玉ノ井親方は「最近は相手のまわしを切るなどの技術を使う力士が少なくなっている。自分たちが学生時代を中心に身に付けた技術を伝える動画があれば、若手の参考になるはずと考えた」と語る。さらに、世界中で相撲に取り組む子どもたちに向けても「参考にしてほしい」と願う。

YouTube動画で、技術取得の重要性を語る玉ノ井親方(玉ノ井部屋提供)
YouTube動画で、技術取得の重要性を語る玉ノ井親方(玉ノ井部屋提供)

相撲は勝敗が明快で、観戦者が技術論を交わして楽しむことはまれだ。ただ、スポーツである以上、細かいテクニックを見分けられるようになれば、楽しさは倍増する。玉ノ井親方は「相撲ファンから『テクニック講座を見て相撲の奥深さを知り、さらに面白くなった』とも言われました」と、効果を実感している。

伝統重んじ 大食い競争や悪ふざけ禁止

活況を呈しつつある角界の動画発信だが、「大相撲の伝統と信頼を守る」という観点から、一定のルールを設ける動きも出てきた。

2025年4月10日、相撲協会は「YouTube運営ガイドライン」を各部屋に通達した。ガイドラインは、協会がこれまで、個人のSNS発信を禁じてきたことや、相撲部屋に対しては「新弟子確保を目的とする場合に限り例外的に認める」としてきたことを説明。そのうえで動画でも「大相撲の伝統と信頼を守ること」を求めた。具体的には動画で大食いや大げさな音声効果、悪ふざけなど、相撲文化や力士の品位を損なうような過度な演出を控えるよう指摘している。違反があれば、相撲部屋全体のSNS活動を禁止する可能性もあるという。

協会関係者は「短パン姿での出演や大食い選手権のような内容は、日本文化としての相撲の地位を揺るがしかねない」と語る。現在、各部屋の動画には目立った問題は見られないが、協会は問題が起きる前に「先手を打った」といえる。

さらに相撲協会は6月2日に東京・両国国技館で親方や力士約900人を集めた研修会を実施。八角理事長(元横綱・北勝海)の講話の後、日本刑事技術協会代表理事の森透匡氏が「ひとつの投稿が人生を台無しにする」とSNS発信の危険性を呼びかけた。

相撲界は、勧進相撲の発祥から約600年、制度がほぼ整った宝暦7(1757)年から数えても270年近い歴史を誇る。幕末や第2次世界大戦直後など幾多の困難も乗り越え、現代にまでちょんまげ文化を伝え続けている。今回のガイドラインは、そうした伝統を重んじる姿勢の表れでもある。

春場所の千秋楽を迎え、あいさつする日本相撲協会の八角理事長(前列中央)=2025年5月25日、東京・両国国技館(時事)
春場所の千秋楽を迎え、あいさつする日本相撲協会の八角理事長(前列中央)=2025年5月25日、東京・両国国技館(時事)

「新弟子確保に有効活用」

とはいえ、動画発信を全面禁止に踏み切らないのは、新弟子確保に向けて動画などの新しいメディアに頼る必要があるからだ。インバウンド需要によってチケットが完売し、外からは安定して見える角界だが、関係者の間では「このまま人材が集まらない状態が続けば、先細りになってしまう」という危機感が根強い。

かつて相撲部屋への入門は「あこがれ」の的だった。1955年から2005年の51年間で、新弟子数が年間100人を下回ったのは3回しかなく、200人以上が3回、150人以上が21回あった。一方、06年以降は19年連続で100人未満が続き、近年は年間70人未満が常態化している。23年秋場所には、身長・体重制限を実質的に撤廃するなど基準が緩和されたが、新弟子の減少は止まっていない。

二子山親方は「体験入門や少年団で相撲を始めた子どもが、動画をきっかけに入門した例もある。相撲の競技人口が減っている今、少しでも相撲の良さを伝えたい」と語る。玉ノ井親方も「YouTubeを見て体験入門を希望するメールが届いた。実際に入門に結びついた例もある」と明かす。

各相撲部屋は、必要な伝統を守りつつ、不要な因習を排しながら模索を続けている。こうした“令和のニュー相撲部屋”の姿を伝えるうえで、YouTubeをはじめとするSNSでの発信が欠かせない存在となっているのは間違いない。極端な少子化やスポーツの多様化といった逆風の中、日本独自の身体文化を未来へとどうつないでいくか──各部屋の新たな挑戦が、すでに始まっている。

※動画は二子山部屋提供

バナー写真:力士の日常の楽しさや醍醐味(だいごみ)を伝えるYouTube動画の数々(玉ノ井部屋、二子山部屋提供)

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