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自己治癒コンクリートやバルーンから発射するロケット:被災地から世界へ! 福島・浜通りで開発進む最先端技術

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2011年3月に発生した東日本大震災の津波に加え、福島第1原発事故で長期にわたる避難生活を強いられたのが、福島県の太平洋側に続く浜通り地区。現在も帰還困難地域が残る上に、原発の廃炉作業も遅々として進まず、14年が過ぎた今でも復興は道半ばだ。

新たな産業基盤を創出するため、国家プロジェクト「福島イノベーションコースト構想」が浜通りの15市町村において進められている。重点分野である「ロボット・ドローン」「航空宇宙」「エネルギー・環境・リサイクル」に取り組む企業が、「福島ロボットテストフィールド(RTF)」や「南相馬市産業創造センター(MIC)」などを活用しながら、最先端技術を生み出し始めた。その一部を紹介したい。

ドローンやロボット、自動運転車の実証実験に加え、インフラ点検作業や防災訓練の環境がそろうRTF(南相馬市)
ドローンやロボット、自動運転車の実証実験に加え、インフラ点検作業や防災訓練の環境がそろうRTF(南相馬市)

研究棟のエントランスには、RTFを活用する企業が開発したドローンやロボットが展示されている
研究棟のエントランスには、RTFを活用する企業が開発したドローンやロボットが展示されている

貸事務所や工場を提供し、起業・経営も支援するMICは、RTFから車で3分ほどの距離
貸事務所や工場を提供し、起業・経営も支援するMICは、RTFから車で3分ほどの距離

■都市型ロープウエー「Zippar」/Zip Infrastructure

MICに本社を置くZip Infrastructure(ジップ・インフラストラクチャー)は、利便性や安全性、経済性に優れた自走式ロープウエー「Zippar」を開発している。現在は実証実験を重ねるためのテストコースをRTFに建築中で、「渋滞のない、どこでも駅徒歩5分圏内となる世界」の実現を目指している。

MIC内にあるZip Infrastructureの工場。中央がゴンドラ部分の試作機
MIC内にあるZip Infrastructureの工場。中央がゴンドラ部分の試作機

Zipparは通常のロープウエーのように、つるしたゴンドラをロープで引っ張って移動させるのではなく、平行に張られた2本の固定ワイヤロープを懸垂式モノレールの線路のように利用する。つまり、ワイヤの上を走る自動運転EV(電動自動車)に、ゴンドラがぶら下がっているようなイメージだ。

ロープウエーは直線的にしか進めないのが弱点だが、Zipparはロープから独立しているので、カーブや分岐する区間に鉄製レールを用いれば、自由自在に路線設計が可能。風による揺れも、ロープを2本並べることで軽減できたという。

都市部で運行するZipparのイメージ画像 写真提供:Zip Infrastructure、biogon pictures
都市部で運行するZipparのイメージ画像 写真提供:Zip Infrastructure、biogon pictures

低コストで導入可能、海外進出も視野

1台当たりの重量は約2.5トンなので、軽量の鉄柱で十分支えられる。歩道や分離帯などに支柱を立てられるため、自治体と連携すれば用地確保の手間も少ない。建設費は1キロメートル当たり約15億円で、モノレールの5分の1、地下鉄であれば20~30分の1程度。工期も約1年なので早期に開業できる。

路線バスよりは導入コストが掛かるものの、交通渋滞や信号待ちの影響を受けないために定時性が高い。自走式なので運転手不足とも無縁で、運用費も抑えられる。12秒に1台が駅のホームに到着する高頻度運行、12人乗りで最高時速40キロ弱を想定しており、1時間で3600人の輸送が可能だという。

神奈川県秦野市の実験線で、カーブ運行のテストを重ねたZippar 写真提供:Zip Infrastructure、biogon pictures
神奈川県秦野市の実験線で、カーブ運行のテストを重ねたZippar 写真提供:Zip Infrastructure、biogon pictures

運転席がないため、ゴンドラ内部は広々
運転席がないため、ゴンドラ内部は広々

現在は商業運転用の車両開発を進めており、2025年6月からはRTFに完成する大規模実験線で安全性などのテストを重ねていく。COO(最高執行責任者)のレボンキン・マリオ・イアン・カロス・フェリド氏は「Zipparの実証実験には広大な土地が必要。RTFがあり、すぐ近くのMICに開発拠点を置ける上に、補助金が手厚い南相馬市、そして福島県は、われわれスタートアップ企業が挑戦するのに最適な場所です」と話す。

すでに国内では多くの自治体と導入に向けた連携協定を結んでおり、27~28年度には国内第一路線の導入を目指す。海外でも米軍基地跡地の活用を計画するフィリピン基地転換開発公社(BCDA)と基本合意書を結ぶなど、注目度は高い。

Zipparの試作機の前でレボンキン氏
Zipparの試作機の前でレボンキン氏

■バルーンからロケットを発射する「Rockoon方式」/AstroX

ロケットはスピードを稼ぐため、地球の自転する方向と同じ「東」に向かって打ち上げるのが鉄則。つまり島国・日本、特に東側に太平洋が広がる浜通りは宇宙開発に地理的優位性を有する。その可能性を最大限に引き出して「宇宙開発分野で日本をNo.1にしたい」と語るのは、AstroXの小田翔武CEO(最高経営責任者)だ。

同社もMICに本社を置き、ロケットを地上約20キロメートル前後までバルーンで運び、成層圏から発射する「Rockoon(ロックーン)方式」の開発を進めている。

雲のない成層圏までバルーンで運び、ロケットを省エネルギーで発射するロックーン方式 © AstroX, Inc.
雲のない成層圏までバルーンで運び、ロケットを省エネルギーで発射するロックーン方式 © AstroX, Inc.

左が小田CEO、右がCTO(最高技術責任者)を務める千葉工業大学の和田豊教授 © AstroX, Inc.
左が小田CEO、右がCTO(最高技術責任者)を務める千葉工業大学の和田豊教授 © AstroX, Inc.

地上でのロケット噴射がないロックーン方式なら、広大な無人の土地を発射場用に確保する必要がない上に、洋上の船からも飛ばすこともできる。洋上離陸では、風向きに船を進めることでバルーンをスムーズに上げられ、天候による打ち上げ延期も減らせるという。

通常のロケットは発射から、空気抵抗が強い対流圏を抜けるまでに膨大なエネルギーを消費し続けるが、バルーンなら燃料費を大幅に削減可能。振動の発生も少なく、計器や積載物のダメージ対策も軽減できるので、打ち上げコストは従来の2分の1、5億円以下に抑えられる。

MICで撮影したフルスケールのハイブリッドロケット模型
MICで撮影したフルスケールのハイブリッドロケット模型

技術的には、成層圏でバルーンから切り離す際の姿勢制御が課題だったが、すでにRTFにおいてフルスケールのロケットを使用した方位角制御に成功。今年からJAXAと共同で「気球用プラットフォーム懸垂型姿勢制御装置」の研究開発も進め、29年度からの本格商業化を目指していく。

姿勢制御装置
姿勢制御装置

2024年11月9日には、ハイブリッドロケットの発射実験にも成功した © AstroX, Inc.
2024年11月9日には、ハイブリッドロケットの発射実験にも成功した © AstroX, Inc.

■自己治癒コンクリート「Basilisk」/會澤高圧コンクリート

すでにインフラ工事などで導入が進む新技術が、會澤高圧コンクリートが世界で初めて量産化に成功した自己治癒コンクリート「Basilisk(バジリスク)」だ。

北海道苫小牧市に本社を置く同社は、2020年にバジリスクの生産を開始。コンクリート産業に変革を起こすことを目指す中で、福島イノベーションコースト構想に共鳴し、2023年6月末に浪江町に「福島RDMセンター」を開設した。バシリスクを含むインフラ向け製品を生産するのに加え、新たな研究開発を進めることで、浜通り地域の人材誘致や交流促進に貢献している。

コンクリート用の3Dプリンターで製造した外壁が印象的な研究開発棟。RDMは研究(Research)、開発(Development)、生産(Manufacturing)を略したもの
コンクリート用の3Dプリンターで製造した外壁が印象的な研究開発棟。RDMは研究(Research)、開発(Development)、生産(Manufacturing)を略したもの

長寿命化に加え、CO2削減にも貢献

鉄筋コンクリートの劣化は、小さなひび割れから進むことが多い。たいていは1ミリ未満の裂け目だが、放置すると水分や酸素が入り込み、内部の鉄骨にさびが発生してしまうのだ。そのため、定期的な点検・メンテナンスが欠かせない上に、耐用年数は50~60年程度と意外に短い。

生産棟の工場内では道路の側溝など、主にインフラ用のコンクリート製品を製造していた
生産棟の工場内では道路の側溝など、主にインフラ用のコンクリート製品を製造していた

バジリスクは、特殊なバクテリアとポリ乳酸を生コンクリートに混ぜることで、ひび割れを自己治癒する機能を備える。ポリ乳酸は生コンクリートの水やアルカリ成分に分解され、バクテリアの餌となる乳酸カルシウムに変化。バクテリア自体は強アルカリのコンクリート内では休眠状態となり、その寿命は200年以上に及ぶという。

ひび割れが発生すると水分と酸素が侵入し、その周辺のアルカリ度数が低下することでバクテリアが目を覚ます。乳酸カルシウムと酸素を取り込みながら分裂を繰り返し、炭酸カルシウムを放出してひび割れを埋めていく。1ミリ程度のひび割れならば2週間ほどで修復。水分と酸素が入り込まなくなると、再びコンクリート内のアルカリ度数が上昇し、バクテリアは休眠状態に戻るのだ。

バジリスク製の集水マス。見た目は通常のコンクリートと変わらない
バジリスク製の集水マス。見た目は通常のコンクリートと変わらない

右上がひび割れした従来のコンクリート、左上が自己修復した状態。下はバジリスクの原料
右上がひび割れした従来のコンクリート、左上が自己修復した状態。下はバジリスクの原料

導入コストは従来のコンクリートの1.5倍近くになるが、メンテナンス費が抑えられ、耐用年数も100年以上に延びるため、長期的に見れば割安だ。また、セメントの生産過程では多大な二酸化炭素を排出することから、長寿命コンクリートの導入はSDGsの実現にも大きく貢献することになるという。

研究開発棟のコンクリート用3Dプリンターは、バジリスクにも対応可能
研究開発棟のコンクリート用3Dプリンターは、バジリスクにも対応可能

會澤高圧コンクリートでは現在、発熱や蓄電が可能なコンクリートや3Dプリンターを積載する高性能ドローンの開発なども進めている。炭素系微粒子「カーボンブラック」を混ぜる蓄電コンクリートは、住宅の基礎部分に使用することで、1日に家庭で使用する電気量を十分に蓄えられる上に、機能劣化がないので半永久的に使用可能だという

さまざまな最新技術が生まれ始めている福島・浜通り。「被災地」から「イノベーションコースト」への転換に向け、今後も多くの企業、人々が挑戦を続けていく。

蓄電コンクリートのデモ装置。発熱させることも可能なため、住宅の床暖房や融雪道路などでの活用も期待される
蓄電コンクリートのデモ装置。発熱させることも可能なため、住宅の床暖房や融雪道路などでの活用も期待される

3Dプリンターを積載することを想定した高性能ドローンも開発中。型枠や足場がなくても、コンクリート建造物の建設が可能になる
3Dプリンターを積載することを想定した高性能ドローンも開発中。型枠や足場がなくても、コンクリート建造物の建設が可能になる

撮影=土師野幸徳(ニッポンドットコム編集部)

バナー写真:浪江町にある會澤高圧コンクリートの福島RDMセンター

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