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国有形文化財に登録された邸宅の「縁側カフェ」:季節感あふれる庭とスイーツを楽しむ(東京・竹ノ塚)

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外と内の境界にあるリラックス空間

時代の記憶が息づく古民家カフェ。その魅力は、伝統的な日本家屋ならではのたたずまいにある。中でも心引かれるのが縁側だ。

縁側とは、家の外と内の境界に設けられた板張りの通路のことを指す。そこは自然光や季節の風を室内に採り入れて暑さ寒さを和らげる役割を持つ、心地よいリラックス空間だ。訪ねてきたご近所さんはわざわざ玄関に回ったりせず、庭先から縁側にひょいと腰かけて世間話に花を咲かせる。縁側はかつて、そんな地域交流の場でもあった。

縁側は外と内の境界にある板張りの通路を指す
縁側は外と内の境界にある板張りの通路を指す

東京都足立区の「昭和の家」には、とびきり魅力的な縁側を主役にした「縁側カフェ」がある。1939年に建てられた洋館付き和風住宅が、憩いの場として街に開かれているのだ。国の有形文化財に登録された瀟洒(しょうしゃ)で落ち着いた空間を、コーヒーやスイーツとともに味わってみよう。

空気の感触が変わる邸宅へ

東武スカイツリーライン「竹ノ塚」駅から歩いて約15分、白塀の門をくぐり、木漏れ日が揺れる路地をたどると、ふっと空気の感触が変わるのを感じる。小さな硬い木の葉が1枚、ぱたりと地面に落ちた音、鳥の声。

玄関には営業中を示す札が立てかけられている
玄関には営業中を示す札が立てかけられている

入口の暖簾(のれん)をくぐって靴を脱ぎ、右手へと畳廊下を進んだ先に縁側カフェがひろがっていた。大きなガラス戸ごしに、庭の豊かな緑が輝いている。この開放的な縁側と、襖(ふすま)を開けてひと続きにした30畳もの座敷、そして縁側の両端にある小部屋がカフェとして活用されているのだ。

庭が見渡せる縁側と広い座敷
庭が見渡せる縁側と広い座敷

さっそく縁側の椅子に腰かけてメニューを開き、カフェラテやフルーツティー、紅茶などの中から、ハンドドリップのコーヒーと季節のフルーツタルトを注文する。この日の自家製タルトは3種類。みずみずしい「いちごのタルト」と、柑橘(かんきつ)フルーツの魅力がはじける「晩柑と清見オレンジのタルト」、沖縄県石垣島産の「ピーチパインのタルト」だ。“和の時間”にこだわりたい気分なら、菓子付きの抹茶やあんみつもいただける。

丁寧にドリップされたコーヒーと自家製のタルト
丁寧にドリップされたコーヒーと自家製のタルト

建物にも庭にも、なんと贅沢な時間が流れているのだろう。よく晴れた新緑の午後、枝垂れ桜の名残りの花とほころび始めたツツジが、庭の彩りに美しいアクセントを添えていた。青々とした梅の枝、赤いイロハモミジ、赤紫に芽吹いたノムラモミジ、ひっそりと梅雨を待つ紫陽花の茂み。1年を通してさまざまな色彩が踊り、移ろう庭だ。

室内に目を向ければ、障子窓が床の間にやわらかで繊細な陰影をもたらしている。このような日本家屋を訪れたら、襖や欄間、雪見障子などの建具に施された手の込んだ細工に注目したい。入口入ってすぐに私たちを迎えてくれる、縁起物の投網をかたどった丸窓の飾りなど、ひとつひとつに往時の豊かな暮らしの余韻と、職人たちの確かな技術が息づいている。

建具に職人の技が光る
建具に職人の技が光る

丸窓に施された投網のデザイン
丸窓に施された投網のデザイン

家の北西部分にはフランス瓦を頂いた洋室があり、かつては商用の応接間、現在はカフェが満席の際の待合室として使われている。窓や扉、シャンデリアのノスタルジックな風情漂う意匠や、無垢板を使った格式高い格(ごう)天井に見とれる。

格天井が特徴的な洋室
格天井が特徴的な洋室

家族の歴史が刻まれた縁側で

この邸宅を建てたのは、自動車部品の加工業を営んでいた平田源七氏である。昭和初期に2000坪もの敷地に工場を構え、この邸宅には家族や書生、お手伝いさんを含めた総勢10人が暮らしていたという。

現在のカフェ店主は、源七氏の孫にあたる平田茂さんだ。

「祖父の時代にはここから富士山が見えたそうです」

現在では想像もつかない眺望だ。当時は工場がぽつんと建っているのみで、周囲に従業員が飲んだり食べたりしてくつろげるような場所がなかったため、慰安をかねてこの邸宅で宴会を催していたという。そのために広い座敷が作られたのだ。

「カフェの入口は、元は勝手口で、道路に面してはいませんでした。区画整理で道路が変更されるまでは裏手だったんです」

街の変化、住まう人の生活の変化につれて、家も庭も元の面影を大切に残したまま変わってきた。縁側の隣にある一室は、かつては布団部屋、その隣が書生部屋になっていたが、約40年前に雨戸を格納する戸袋などを改装し、サンルームのような趣の洋室に生まれ変わった。ソファに座れば新緑や枝垂れ桜が間近に見える特等席である。

この貴重な建物をカフェにすることを選んだ理由は何だったのだろう。

「一緒に住んでいた母が他界した後、この眺めを家族で独占するのはもったいないと感じたのです。家屋や庭の維持管理の難しさもありますが、何より、カフェとして多くの方々と共有できればと考えました」

開業に向けた準備は、時との対話のようでもあったらしい。3代にわたる暮らしが織り込まれた多数の家財道具にも別れを告げた。掘りごたつはもちろんのこと、火鉢などの暖房器具が大量にあったという。気密性の高い現代住宅とは異なり、古民家の冬の寒さは厳しいのだ。

洋風の調度がしっくりとなじんだ和室
洋風の調度がしっくりとなじんだ和室

また、夏の夜は蚊帳が必需品だったので、今でも鴨居などに蚊帳吊り用のフックが残されているそうだ。昭和時代の夏、縁側に腰かけて楽しんだ花火の残り香や蚊取り線香の煙が漂う蚊帳の中で、子どもたちはどんな話をしながら眠りについたのだろう。

86年にわたって受け継がれてきた邸宅。庭の一角の大きな灯籠の辺りには、かつては滝と池があり、築山の下は防空壕だったという。「放置すればたちまち苔の中からも雑草が顔を出すんですよ」と平田さん。

代々の住人がたえず愛情を注ぎ、時代の変化に対応しながら守り抜いてきた「昭和の家」の、美しい縁側。カフェという存在そのものが、都市とプライベート空間の境界線上にある縁側のような空間ではないだろうか。身も心も緑にうっすらと染まりながら、そんなことを考えた。

昭和の家 縁側カフェ

  • 住所:東京都足立区西保木間2-5-10
  • 営業時間:午前11時30分~午後6時(ラストオーダー午後5時30分)
  • 定休日:土・日・月曜日 その他不定休あり
  • アクセス:東武スカイツリーライン「竹ノ塚」駅より徒歩14分
  • 公式サイト:https://shouwanoie.jp/

取材・文・写真=川口葉子

バナー写真:手入れされた庭を楽しめる縁側の席

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